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名古屋地方裁判所 昭和53年(ヨ)405号 決定 1978年7月07日

申請人 杉浦二三男

<ほか六名>

右代理人弁護士 浅井淳郎

同 冨田武生

同 水野幹男

同 斉藤洋

同 鈴木泉

右水野復代理人弁護士 宮田陸奥男

被申請人 栃木合同輸送株式会社

右代表者代表取締役 栃木滋彌

右代理人弁護士 野田底司

同 楠田仙次

同 佐治良三

同 太田耕治

同 水口敞

同 楠田堯爾

同 後藤武夫

同 田川耕作

同 大山薫

同 建守徹

補助参加人 名古屋港湾労働組合

右代表者組合長 田島七右エ門

右代理人弁護士 福岡宗也

同 水野敏明

同 小澤幹雄

主文

一、申請人らが被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二、被申請人は申請人らに対し、昭和五三年四月一日以降毎月二七日限り、別紙債権目録記載(但し四月分はC欄記載の、五月分以降はA欄記載)の各金員を仮に支払え。

三、申請人らその余の申請を却下する。

四、申請費用中補助参加によって生じた分は補助参加人の負担とし、その余は被申請人の負担とする。

理由

一、本件仮処分申請の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

二、よって按ずるに、申請人山下龍保を除くその余の申請人らがいずれも被申請人の従業員で艀船員として勤務していること、被申請人が港湾運送事業・倉庫業等を営み、従業員約三〇〇名を有する資本金一億円の株式会社であること、被申請人が昭和五三年三月三一日申請人らに対し、労働協約九条並びに就業規則二六条三項に基づき申請人らを解雇する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争いがなく、疎明資料によれば、申請人山下に対しては、訴外藤木海運株式会社(以下「訴外会社」という)においても、右同日労働協約九条に基づき同人を解雇する旨の意思表示をしたことが認められる。

三、疎明資料によれば、申請人山下は昭和三六年三月二七日訴外会社に入社し、かつ、後記参加人名古屋港湾労働組合(以下「参加人名港湾」という)藤木分会の組合員となったが、訴外会社が昭和五一年八月中旬頃艀部を廃止して所有艀船三隻を被申請人に譲渡する際、外二名の艀船員とともに被申請人に出向を命ぜられ、以来被申請人の従業員としてその指揮命令下に艀船員として労務を提供し、賃金の支払を受けて来たこと、及び出向と同時に後記参加人名港湾栃木合同分会の組合員となったこと、退職金につき訴外会社と被申請人との間で退職時点において訴外会社と被申請人の勤続年数を通算したうえ訴外会社の退職金規定に従って計算した金額を支給すべき退職金総額とし、そのうち被申請人が申請人山下の同社勤務年数分については被申請人の退職金規定によって支払い、残額については訴外会社が支払う旨約定されており、右約定に従い申請人山下は右出向の時点で訴外会社から退職金を受領していないこと、以上の事実が認められる。右事実に照らすと、申請人山下の出向は、いわゆる在籍出向と解するのが相当である。

ところで、在籍出向である以上、出向元である訴外会社と申請人山下との間の労働契約(労働義務の免除のなされたいわゆる地位取得契約)は消滅してはいないものの、申請人山下は、現に出向先である被申請人の指揮監督に従って艀船員として労務を提供し被申請人から賃金の支払を受けてきたのであるから、申請人山下と出向先である被申請人との間には出向元との労働契約と並んで通常の労働契約が成立しているものというべきである。

四、疎明資料によれば、次の事実が認められる。

(一)  名古屋港の港湾関係労働者は、昭和二一年全日本港湾労働組合東海地方名古屋支部(以下「全港湾」という)を結成していたが、昭和三〇年一月一五日大洋海運株式会社、協和海陸作業株式会社、及び訴外会社に勤務する約三五〇名の労働者(艀船員を除く)が全港湾を脱退し、参加人名港湾を結成した。参加人名港湾は現在組合員数約二五〇〇名、本部と八分会(平水、東海協和、広鉄、藤木、藤木作業、栃木合同、大洋、菱洋)、一支部(四日市)から成り、日本港湾労働組合連合会に所属している。

被申請人は昭和四二年三月一四日栃木汽船株式会社(以下「栃木汽船」という)名古屋支店の艀業務の全部、株式会社共同組、訴外会社の一部業務とそれぞれの従業員を引き継いで設立されたが、その当時艀船員九名は全港湾の組合員(昭和四五年四月頃までにすべて全港湾を脱退し参加人名港湾に加入)、その他は参加人名港湾の組合員であった。

申請人杉浦は昭和二九年七月二日栃木汽船に入社し、当初全港湾に加入していたが、昭和四五年四月同組合を脱退して参加人名港湾に加入し栃木合同分会に所属していたもの、申請人大西は昭和三三年四月一日全港湾に加入し、昭和三四年七月一一日栃木汽船に入社したが、昭和四五年四月一日右組合を脱退して参加人名港湾に加入し栃木分会に所属していたもの、申請人須甲は昭和四一年六月一一日栃木汽船に入社し当初組合に加入していなかったが、昭和四五年四月参加人名港湾に加入し、栃木合同分会に所属していたもの、申請人高津は昭和三五年九月二一日栃木汽船に入社し、同時に全港湾に加入したが、昭和四四年四月脱退し、昭和四五年四月参加人名港湾に加入し栃木合同分会に所属していたもの、申請人水谷は昭和三八年一〇月二一日栃木汽船に入社し、同時に全港湾に加入し、昭和四二年四月一日被申請人に入社、同年一〇月全港湾を脱退し、昭和四五年四月参加人名港湾に加入し栃木合同分会に所属していたもの、申請人永江は昭和四二年四月二九日被申請人に入社し、当初組合に加入していなかったが、昭和四五年四月参加人名港湾に加入し栃木合同分会に所属していたもの、申請人山下は前記のとおり昭和三六年三月二七日訴外会社に入社し、同時に参加人名港湾に加入し藤木分会に所属していたが、昭和五一年八月二一日被申請人に出向し、同時に同組合栃木分会に所属していたものである。

ところで、申請人高津、同水谷、同杉浦、同大西、同須甲、同山下は昭和五三年三月一七日付二一日栃木合同分会到達の申請人永江は同月一九日付同月二三日栃木合同分会到達の、各書面をもって参加人名港湾及び同組合栃木合同分会宛に、参加人名港湾が労使協調に片寄りすぎる点が不満であることなどの脱退理由を記載した脱退届を提出し、申請人永江を除くその余の申請人らは同月一七日に、申請人永江は同月一九日に全港湾東海地方名古屋支部へ加入し、申請人らは同支部栃木合同班を結成し、同月二二日班長を申請人杉浦、副班長を申請人大西、書記を申請人須甲と定めた。

参加人名港湾は、申請人らの脱退には正当な理由がなく、組合の統制を乱すものであり、全港湾の組織妨害工作に外ならずとなし、同月三〇日被申請人に対し労働協約九条に基づき申請人らを解雇するよう要求し、翌三一日被申請人は就業規則二六条三項(やむを得ない業務上都合解雇)を適用し、予告手当金を提供の上申請人らに対し、前記のとおり解雇通告をなし、かつ申請人山下の出向元である訴外会社に対し、申請人山下の解雇を通知し、訴外会社も同日前記のとおり労働協約九条に基づき申請人山下に対し解雇通告をするに至った(予告手当金は受領拒絶されたので被申請人において供託)。

(二)  被申請人及び訴外会社と参加人との間の労働協約九条三項には「甲に雇用された従業員で、故なく乙に加入せず、乙の承諾なくして乙以外の労働組合に加入し、又は故なく乙を脱退し、若しくは除名された場合は、甲はこれを解雇する。但し、甲・乙協議の上認めた者はこの限りでない。」(甲は被申請人ないし訴外会社、乙は参加人名港湾をいう)と定められており、参加人名港湾の組合規約三八条には組合を脱退しようとする者は、その理由を書いた脱退届を分会又は支部を通じて届出なければならないと定めている。

五、ところで、憲法二八条の労働者の団結権保障規定は、個々の労働者の団結の自由(組合結成の自由)ないし団結体選択の自由(組合選択の自由)の保障と、団結体(組合)の団結権の保障の両者を含み、後者の団結権は対内的統制権能と対外的組織化権能を含むものであると解され、従って、一方の組合に属する組合員が当該組合を脱退して他の組合に加入することは、一面において労働者の団結体選択の自由にかかわるものであり、これは同時に一方の組合のもつ団結権の対内的権能と他の組合のもつ団結権の対外的権能の衝突、競合の問題にかかわるものでもあるから、このような場合には、憲法二八条の精神に照らし、特段の事情なき限り、一方の組合と使用者との間に結ばれているショップ協定の効力は右脱退者には及ばないと解するのが相当である。

蓋し、ショップ協定は、使用者の助力により団結を強化する側面をもつから、この助力が右のような場合に効力を有するとすると、労働者の組合選択の自由を阻害し、また一方の組合の団結権を擁護し、他の組合の団結権を圧迫する作用を営むことになり、これは憲法二八条の精神に反する結果を招来するからである。

この理は、右の二組合が企業内組合であると、本件のように業種別合同労組であるとにより異るところはないと解される。

これを本件についてみるに、前記のとおり申請人らは参加人名港湾の組合路線を不満として同組合を脱退して全港湾に加入したものであり、本件全疎明資料によるも申請人らが参加人名港湾の組織妨害等の不当の目的で脱退したとか、全港湾が憲法二八条で保障する団結権の保護に価しない自主性を欠いた組合であること等のことは認められないから、申請人らには本件ショップ協定の効力は及ばず、従ってショップ協定に基づき通常解雇事由該当を理由になされた被申請人及び訴外会社の本件解雇の各意思表示はいずれも無効である。

六、従って、申請人らは本件解雇の翌日である昭和五三年四月一日以降もいぜんとして被申請人の従業員としての地位を有することは明らかであり、申請人らが本件解雇当時被申請人より毎月二七日限り前月二一日から当月二〇日までの分として別紙債権目録A欄記載のとおりの月額賃金の支払を受けていたことは当事者間に争いがないから、申請人らは民法五三六条二項により昭和五三年四月一日以降も右賃金債権を有することは明らかである。

そして、疎明資料によれば、被申請人は、申請人らに対し本件解雇時に、二月二一日から三月三一日までの未払給与として別紙債権目録B欄記載のとおりの賃金を提供したが、受領拒絶されたので供託したことが認められるから、申請人らの四月分の賃金債権は別紙債権目録A欄記載の金員から同B欄記載の金員を差引いた同C欄記載の金員となる。

七、疎明資料によれば、申請人らは賃金を唯一の生計の資とする労働者であり、被申請人から右賃金の支払を受けられないまま本案判決の確定を待っていては著しい損害を受けるおそれのあることが窺われるから、仮処分の必要性が認められる。

八、よって、申請人らの本件仮処分申請は右認定の限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当として却下し、申請費用及び補助参加費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九四条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本武 裁判官 戸塚正二 島本誠三)

<以下省略>

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